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「…様! 惣右衛門様!起きてくだされ!」
肩を揺すられながら、自分の名前を耳元で叫ばれた惣右衛門は、ゆっくりと目を開けた。
「わしは…」
口に出しながら周囲を確認すると、既に夜の帳は下りて、辺りは漆黒に包まれている。そして彼は、自分が大きな石にもたれかかるようにして、寝てしまっていたことに気づいたのである。
「こんなところで寝てしまっては体が冷え切ってしまいます!早く戻りましょう!」
それは惣右衛門の世話をしてくれている少年であった。どうやら彼は暗くなっても一向に戻らぬ惣右衛門の事を心配して辺りを探していたようだ。若干息が切れているのは、彼が必死に駆け回っていたことを表していた。
惣右衛門は素直に「これは心配かけて、すまなかった。では早く戻るとしよう」と、少年に頭を下げると、その少年の手を借りながら、ゆっくりと立ち上がった。
もうこの時には、辺りに秋月の地を愛した二人の侍の気配は感じられない。
それでも惣右衛門は、その石に軽く頭を下げる。そして、一言だけ漏らした。
「心配はいらんからのう」
そんな彼の真横を山から下りてきた冷たい風がすうと通り過ぎる。ぶるっと身を震わせた彼は寒さをしのぐ為に、体をこすりながら、自分の屋敷へと急いだのだった。
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