秋月のまじない

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……… …… ――負けるな! 這い上がれ!  ふと頭上から少年特有の高い声が響いてきた。その方に視線を向けると、そこにはよく日に焼けた少年の笑顔。彼は大きな石の上から懸命に下へその小さな手を伸ばしている。どうやら少年が乗っているその石は、惣右衛門が毎日手を合わせるあの石のようだ。その石が今彼が見ているこの景色では、小高い岩山の上にある。小高いと言っても大人が少し手を伸ばせば届いてしまうくらいのものだが、今石の上にいる少年にとっては、さながらそびえ立つ壁のようなものであったであろう。  その岩山を正面にして、惣右衛門は立っていた。彼はふと周囲を見回す。目に入ってきた景色はどれも見慣れたものであり、どうやらそこは秋月の地には間違いないようだ。しかし、辺りは暗くなっていたはずなのに、太陽は空高くにあり、その陽射しも秋の柔らかさはなく、真夏特有の刺すような厳しいものだ。この事から彼は追いかけてきた二つの気配の遠い記憶の中に入り込んだことを直感したのである。       
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