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「それに、汐璃が恋を教えてって言ったでしょ」
「そんなこと……私にできないもの……」
人に教えられるような恋愛経験なんてない。
私の恋は、どれも淡くて、自然と消えてしまったような儚いものばかりだ。
付き合った人はいたけど、長く続いた人はいない。
「じゃあ、やっぱり僕が教えてあげなきゃね」
悪戯っぽく微笑んだジョーとは裏腹に、私はうまく表情が作れていなかったのかもしれない。
ジョーの微笑みが困ったように崩れて、そっと私の腰に手を添えた。
「とりあえず、清谷書房に戻ろう」
「そうだね」
並んで歩き始める。
梅雨明けには早いはずなのに、日中は晴れが続いている。
神保町の歩道も、乾いていた。
「汐璃は、いつもこの道を歩いてるんだね」
「そうだよ。南北書店さんには、よく行くから」
ジョーが、物珍しそうに辺りを見渡す。
1階には、飲食店の入った小さなビルが立ち並ぶ、見慣れた風景だ。
「今日は、疲れたでしょ? 結局、取材じゃなくて、サインを書いてもらうばかりになっちゃって、ごめんね」
「いや、汐璃の仕事が見られて良かったよ。汐璃は……どうしてこの仕事を?」
「え?」
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