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「僕は、汐璃が出版社に入ったというから、てっきり翻訳家になったものだと思ってた」
「翻訳家にはなりたかったけど……就職するまでに目処が立たなかったら、諦めると決めていたの」
私が大学に入ってから、会社員をしていた父が会社の業績不振で解雇されてしまい、お金を得ることの大変さを実感した私は、そう決めたのだ。
生計を立てる見込みもないのに、翻訳家一本で暮らしていくつもりはなかった。
4歳下の妹は、国公立大学に落ちて、今春から私立大学に通い始めた。
私は、高校、大学と私立に通わせてもらった身だ。
大学卒業後は経済的に自立し、できれば実家に仕送りできるようになりたかった。
翻訳者を目指すために、大学は英文科を選んだし、父が解雇されるまでは専門学校にも通わせてもらった。
それ以降も、アルバイトでは翻訳を続けていたものの、それだけで暮らしていけるようなお金は得られそうになかった。
今は、簡単な翻訳ならコンピュータでできてしまうし、インターネットで文書のやり取りができるから、在宅のパートタイムの翻訳家がたくさんいるそうなのだ。
いつになったら翻訳だけで稼げるようになるのか、先行きは見通せなかった。
アルバイトとして翻訳を続けながらも、一般の就職活動にも力を注いだ私は、幸いにも憧れの出版社で正社員の職を得ることができた。
一番の夢は叶わなかったけれど、私には夢のような仕事だ。
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