秘密のサイン

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ジョーに連れて行かれたのは、銀座だった。 私でもよく行くような百貨店やファストファッションが立ち並ぶ通りから、裏手に何本も入る。 ジョーが、タクシーの運転手さんに住所のメモを渡していたようだから、間違いではないはずだ。 キョロキョロしながら車を降りる。 静かな佇まいのビルの一階は、和風の凝ったしつらえで、一見して中が分からない。 のれんを潜って中へ入ると、そこは呉服屋さんだった。 「こんにちは。早見と言います。井口さんから、ご紹介いただいたんですが」 井口……秋穂だ! 手回しが良すぎる。 本気で、ジョーに着物を着てほしかったのね。 「早見様、お待ちしておりました。さあ、どうぞ奥へ」 通路の両側は高くなっていて、畳敷きだった。 何本もの反物や帯、着物が飾られている。 「井口さんには、浴衣がいいんじゃないかと聞いてきたんですが」 「今は、浴衣も外出着になりましたからね。お若い方が、初めて着物をお召しになるには、よろしいと思いますよ」 「すぐに着られるものは、ありますか?」 「ええ、こちらに」 高級そうな呉服店には意外なことに、すぐ着て帰りたいという外国人観光客に対応して、既に仕立ててあるものも揃っていた。 それも、ジョーのように大柄な人向けのサイズもあると言う。
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