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10名用の会議室は、立ちふさがる多くの人で中を見通せないけれど、奥から誰かがこちらに向かってくるようだ。
背の高い男性らしく、間を塞ぐ社員たちの頭の上から黒髪が覗く。
次に、インディゴブルーのジャケットに包まれた分厚い肩。
袖口を包むブラックシャツ。
やがて現れたのは、私より30cm以上も高いかと思われる長身の、がっしりした身体の男性だった。
──まさか。
彼に……彼に、似ている気がした。
瞬きもできずに、すぐ傍に立ったその人を見上げる。
──でも、きっと違う。
彼ならきっと、こんなふうに私を見ない。
床に縫い付けられてしまうのではないかと思うほど、どっしりと重たい視線に感情はなく、引き締まった頬は、ピクリとも動かない。
美しい人だった。
そして、とても力強い。
聡明そうな額、力強い眉、太い鼻筋。
奥二重の瞳は眦に向かってすうっと細まって、僅かに下がり、眼光の鋭さを和らげる。
薄っすらと焼けた肌の中で、ふっくらと盛り上がった唇だけ柔らかく赤らんでいる。
その唇が、ゆっくりと開いた。
「……汐璃」
その穏やかな声を聞いた瞬間、否定しようとしていた声は消えた。
「ジョー……?」
私は自然と、そう聞き返していた。
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