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「でも……何て言えばいいか、分からないんだ」
「英語でもいいよ。理解できるか分からないけど」
「……ううん、いい。日本で日本人と話すときは、日本語で話すと決めたから。それに、英語でだって僕は……きっとうまく話せない」
ジョーは、握り締めた拳を膝に強く擦りつけた。
もしかしたら、思い切り叩きつけたかったのかもしれない。
いつもは女の子よりおとなしそうなジョーの初めて見せる激しさに、怖いとは思わなかった。
ただ切なかった。
手紙でのジョーは、雄弁だった。
身の回りのことを面白おかしく伝えてくれ、お互いの手紙は長くなる一方だった。
きっと、ジョーの中にはたくさんの言葉が詰まっている。
それを知れなくて残念に思う私よりきっと、伝えられないジョーの方が苦しいだろう。
私は、膝の上で震えるジョーの拳に、自分の手を重ねた。
ハッと身じろいだジョーを覗き込むようにして、真剣に言う。
イルカのプールでは、まだショーが続いていたけれど、気にならなかった。
「今話せなくてもいいよ。また、手紙に書いてくれる?」
「汐璃……」
ジョーのもう一つの手が重なって、私の手がジョーに挟まれる。
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