秘密のサイン

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* * * ジョーに向けられる不躾な視線を気にしながら、渋谷駅で乗り換え、会社のある駅に着いた。 「朝から疲れちゃったんじゃない?」 「疲れたって言ったら、手を繋いでくれる?」 「ダメ! 近くに、職場の人がいるはずだし、もう仕事中みたいなものだもの」 「僕は見られても構わないけど」 「私が気にする」 「じゃあ、腕を組むのは?」 「もっとダメだってば」 こんなやり取りも慣れてきてしまった。 どこまでが冗談なのか、本気は混じっているのか、ジョーはいつも穏やかだから分からない。 「これを毎朝続けている汐璃は偉いな」 「そんなことないよ。みんなこうして通ってるんだし。それに、ここにに来るの、嬉しいの」 不思議そうなジョーに、教えてあげる。 「この街は、世界一の本の街とも言われているんだよ。昔から大学があって、学生さんや研究者のために、古書店が発展したの。 今では大きな出版社もあるし、うちみたいな小さな出版社も、編集や校閲、印刷の会社なんかもたくさんある、本に関することが全部集まっている街なんだよ。 だから、ここで働くのが楽しみだったんだ」 「汐璃は、本当に本が好きなんだね」 「うん。新刊を売っている普通の本屋さんもあるし、専門書店とか、面白いお店がたくさんあるから、ジョーも時間があったら見てみてね」
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