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ジョーに向けられる不躾な視線を気にしながら、渋谷駅で乗り換え、会社のある駅に着いた。
「朝から疲れちゃったんじゃない?」
「疲れたって言ったら、手を繋いでくれる?」
「ダメ! 近くに、職場の人がいるはずだし、もう仕事中みたいなものだもの」
「僕は見られても構わないけど」
「私が気にする」
「じゃあ、腕を組むのは?」
「もっとダメだってば」
こんなやり取りも慣れてきてしまった。
どこまでが冗談なのか、本気は混じっているのか、ジョーはいつも穏やかだから分からない。
「これを毎朝続けている汐璃は偉いな」
「そんなことないよ。みんなこうして通ってるんだし。それに、ここにに来るの、嬉しいの」
不思議そうなジョーに、教えてあげる。
「この街は、世界一の本の街とも言われているんだよ。昔から大学があって、学生さんや研究者のために、古書店が発展したの。
今では大きな出版社もあるし、うちみたいな小さな出版社も、編集や校閲、印刷の会社なんかもたくさんある、本に関することが全部集まっている街なんだよ。
だから、ここで働くのが楽しみだったんだ」
「汐璃は、本当に本が好きなんだね」
「うん。新刊を売っている普通の本屋さんもあるし、専門書店とか、面白いお店がたくさんあるから、ジョーも時間があったら見てみてね」
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