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「ジョー?」
「……すぐ終わらせる」
「急がなくて大丈夫だよ。今日は、このお店が最後だから」
猛然とサインを書き始めたジョーを宮崎さんに頼み、店頭に戻った。
催事用のテーブルでは、生駒さんが一人で作業している。
「お待たせしました、生駒さん。チーフ自ら動いてくださって、どうもありがとうございます」
「俺は、汐璃ちゃんだから、こうして清谷書房の本が売れるように、がんばってるんだよ」
「はい、ありがとうございます」
いつもより厳しい生駒さんの声音に、ビクリとする。
私を信頼してくれているんだという褒め言葉だと思うのに、素直に喜ぶには口調が厳しすぎる。
「それより、あの……汐璃ちゃんって呼んでいただくのは、ちょっと恥ずかしいかなと思うんですけど……あはは」
冗談めかして言ってみても、溜め息をつかれただけだった。
「別に構わないでしょ」
「あー……そうですか」
今日は、相当機嫌が悪いらしい。
また後日、機会を見つけて言ってみることにして、せっせと手を動かすことに集中する。
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