秘密のサイン

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「先生、色紙に『南北書店さんへ』と書いていただけませんか?」 「英語だったらいいけど」 「え、日本語はダメなんですか? そんなにお上手なのに?」 「僕が書くのは、英語専門」 冗談めかして言ううちに、サッとローマ字で書き上げてしまった。 喜ぶ宮崎さんには隠れて、私に向かってウィンクする。 私は思わず、ジョーのサインが書かれた本の入ったバッグを胸に抱き寄せた。 「また、抱き締めてる。早く僕も抱き締められたい……」 また冗談言って……。 そう窘めたかったのに、胸がいっぱいでうまく言葉が出てこなかった。 「じゃあ、これで失礼します。ありがとうございました」 「ありがとうございました。お気をつけて」 にこやかに店員さんたちが見送ってくれる中、生駒さんの硬い表情だけが浮いていた。
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