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(どこだ!どこなんだ!どこまで行ったら父さんはやり直したいって思わなくなるんだ!)
次に目が覚めた時、そこは仄暗い場所だった。
(……ここは……?)
薄ぼんやりとした意識の中で考えていると、温かい壁を隔てた向こうでくぐもった声が聞こえてきた。
「どうする気なの?!」
(この声は……?おばあちゃん……?)
「わからない……。あの人は産んでくれって言うけど……。私には自信がないよ……。それに……」
「良く考えなさいね」
(……なんだ?どういう……事……なんだ……?)
俺の思考能力は著しく低下していた。
(『あの人』……って……、父さんの事……か?だとしたら……やっぱり喜んでくれて……たんだ……な……)
俺は心地良い温かい物に包まれて、そのまま眠ってしまった。
もうそれ以上過去へと戻る事はなかった……。
「決心したんだね?」
おばあちゃんの声が聞こえる……。
「うん。あの人と一緒になっても幸せになれると思えないし……。それに幸いな事に彼にはこの事はバレてないから」
(……?!)
「そうそう、どっちと結婚する方が良いかなんて……決まってるでしょ?」
(……?!)
「うん。この子には悪いけど、せっかくの玉の輿の話を蹴ってまで産んだって、ねぇ?」
「そうだよ。『やり直す』なら、今しかないんだよ」
(なんだ?!どういう事だ!『やり直したい』と思っていたのは父さんの方じゃなかったのか?!どういう事なんだよ!母さん!母さん!!)
俺はありったけの力で暴れた。だが、わずか数センチでしかない俺が、どんなに足掻いたところで気づいてもらえる訳などなかった。
(母さん!お母さん!)
「先生、よろしくお願いします」
母親の震える声が体中に響いた。
「では、数を数えていってください」
「1・2・3・4…………」
(お母さん!助けてよ!お母さん!僕はここに居るんだよ?!お母さん!お母さん!!)
俺は力の限り、泣き叫んだ。
(ママーー!ママーーーー!!)
そうして俺は温かく幸せな空間から、無機質で冷たい物の手で明るい場所へと導かれ、もうどこにも戻る事はできなかった…………。
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