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その日 小学校からの下校中、Y字路に差し掛かった時だった。なぜか好奇心に駆られて、通学路から外れて家とは逆の方へ行ってしまったのだ。すると前から来た散歩中の大型犬が、いきなり俺に噛みついてきた。きっと犬の虫の居所が悪かったのだろう。すぐに飼い主が犬を制止したため命に別条はなかったが、酷い噛み傷で数日間病院に入院する羽目になったのだ。 「どうして、ワタルがこんな目に……」 母親は俺の側で泣き崩れていた。 母親のその姿を見て俺は、どうして寄り道なんかしたのか、寄り道さえしなければ犬に噛まれる事もなかったし、母親を悲しませる事もなかったのに……傷の痛みに耐えながらそんな事ばかり考えていた。どうしてあの時、あの道を通ったのだろう……。あの時寄り道さえしなければ……。……もう一度あの時間に戻れたら、今度は絶対に寄り道なんかしない……。 痛み止めが効いてくると急に睡魔に襲われて、俺は病室の天井をぎりぎりまで見つめながら、眠りについた……。 翌朝目が覚めた俺は驚いた。目に映っていたのは病院の天井ではなく、見覚えのある自分の部屋のものだったのだ。いつのまに俺は、自分の家の自分のベッドで寝だのだろう? 「マッ……、お、おかあさん!」 その頃の俺といえば、ちょうど母親の事を『ママ』から『おかあさん』にシフトしていた頃だった。あまりの事にもう少しで『ママ』と叫びそうになっていた。 「おはよう、ワタル。どうしたの?」 血相を変えてリビングに駆け込んできた俺の顔を見た母親は、『まさか、おねしょしたの?』とでも言いたそうだった。     
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