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湯浅真琴はワンルームしかない自分の部屋でスーツ姿のまま、いびきをかき始めた男を嫌悪の眼差しで見つめてから、ため息を一つ吐いた。
一つだけしかないベッドに、堂々と転がって眠る男は、記憶が確かなら一週間ちょっと前に自分から別れを切り出してきたはずなのに、今日ひょっこり真琴のウィークリーマンションに顔を出した。
「終電逃しちゃってさ。泊めて」
そう言ってずかずか上がり込んで込み、勝手に冷蔵庫を開けてミネラルウォーターのペットボトルを取りだすと、ごくごく一本飲み干した。
そして、あっという間にベッドに崩れ落ちて大いびきだ。
ドアを開けなければ良かった。
鍵なんて開けるべきじゃなかったのに、忘れ物か何かを取りに来たのだと思って、開けてしまった。
この男は境界線が曖昧で、真琴が築く壁もあっという間に突破するような人だった。
「湯浅さん、真琴って言うんだ? かっこいいね。美人なのに名前までかっこいいと近寄りがたいから……まこちゃんって呼ぶ」
新入社員研修で、誰とも仲良くなれずに居た真琴にそう話しかけてきたのを今でもはっきり覚えている。
人好きしそうな笑顔のどこにでもいる普通の男、それが小野寺陽太だった。
とにかく社交的で、明るいのだけが取り柄みたいな陽太は、真琴がどんなに冷たくあしらおうとグイグイ近づいてきて、最終的に彼氏と言う座に居座った。
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