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「そう」
女の子の主張に答えると「じゃあ、帰ることにするから。えっと、教えてくれてありがとう」と踵を返して、今来た道を戻りだした。
そんな真琴の背に向かって優愛が「あんまり好きじゃないなら歩を返してよ!」と叫んだ。
真琴は上げかけていた左足をそのままアスファルトに下して、振り返る。
「好きです。あんな優しい人いないから、誰にも渡したくない」
優愛は思わぬ反撃だったのだろう、少し怯んで上目遣いで睨んでから「あっそ」と不貞腐れた口をきき、つかつかと歩いて真琴の横を通り過ぎて、そして駆け出して行った。
去っていく若い後姿を見送りつつ、腫れた右手を左手で包んだ。
カナダに……歩がカナダに。
私のせいでこの店にこれなくなってカナダに行ったのなら、連れ戻さなきゃ。
大事な人なのだから。
これ以上、自分のせいで歩の生き方を変える訳にはいかない。
ミニスカートが道の角を曲がって消えて行った。
既にカナダで働きだしているのだろうか?
まさか、そんなこと……。
真琴は急に居ても立っても居られなくなって、前のめりになって動き出した。
動く足は速く、前へ前へと急いて行く。
歩をとめなくちゃ。
その一心で、とにかく家に戻って歩の行き先が分かるものを探してみようと、早足で家路を急いだ。
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