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歩は背負っていた登山用のリュックサックから家の鍵を取りだした。
数泊なら十分に事足りる、リュックだ。
手にした鍵を一回軽く投げてキャッチし、鍵穴に差し込んだ。
朝八時になっていて、すでに真琴は仕事をしに出掛けて行った時間だろう。
間に合うように帰って来たつもりだったのだが、飛行機の到着が遅れて、思うような時間には家に辿りつけなかった。
そんな風に思っていたのに、玄関に入ってみると、風呂場の方からシャワーの音が聞こえて動きを止めた。
真琴のパンプスが珍しく乱れた状態で脱ぎ捨ててあるのを見つけて、顔を上げて耳を澄ます。
休みか? 疑問に思いながら、背中から重いリュックサックを下ろしながら家の中へ入っていく。
そして、これまた珍しく開け放たれている真琴の部屋のドアの奥にそれとなく目を向けると、旅行用のトランクケースが出されているのを見つけた。
右手にぶら下げるように持った荷物が重くて、不思議に思いながらも、とにかく荷物を下ろす為に自分の部屋に入って行った。
どさっと部屋の中心にリュックサックを下ろすと、部屋のカーテンを開けにベッドの横まで歩いていき、一気にそれを開ける。
朝日が待っていたように部屋の中を明るくした。
歩は振り返ると、パソコンデスクの上に出しっぱなしにしていた用紙が目に留まり、苦々しい気持ちになりながらそれを片付けるべく寄って行く。
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