第1章

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? 戦争なんて、教科書の中の事だと思っていた。  あの大きな大きな戦争が、きっと世界で最後に起きた大きな戦争なんだと思っていた。  何年か前まで、テレビの中では、どこかよその国で起きている戦争が映されていた。  戦争って嫌だなあ。  そう思いながらも、あたしはどこで戦争が起きても、きっとこの国は、そしてあたしたちは戦争なんかに巻き込まれないだろうと思っていた。  戦争の手はこの国にまでやってきた。  なんで、この国が戦争をするようになったのか、あたしは知らない。  テレビでも、新聞でも、なんかいっぱい難しいことを言ってて、あたしにはよく分からなかった。  だめだなあ。学生の頃、もう少しちゃんと勉強しておくんだった。  でも、分かってることだってあるんだ。  もう、この世界で戦争していないところなんてほとんど無いんだって。  誰かが「だいさんじせかいたいせん」だって、言ってた。  徴兵なんて、昔の話だと思ってた。  徴兵ってさ、兵隊さんが少ないから、兵隊じゃない人を兵隊さんにするために呼びつけるんだよね?  酷いよね。持ったことも無い鉄砲持たされるんだろうなあ。  大変なのかな?  やっぱり、殺したり殺されたりするのかな?  草介さんも死んじゃうのかな?  死んじゃったら嫌だな。さみしいよね。  草介さんも兵隊さんになっちゃった。  行かないでって言ったけど、無理なんだって。  でもね、草介さん、ちゃんと生きて帰ってくるって約束したんだ。  会えないのは寂しいけど、会えない間の気持ちは変わらないよって、約束してくれたんだ。  だから、あたしは草介さんの帰りを待つんだ。笑顔で「おかえりなさい」って言いたいから。  言った後に、思いっきりギュってするんだ。力いっぱいギュってするんだ。  今からそう決めている。  今日も戦争。  昨日も戦争だった。  きっと明日も戦争。  でもなんだろう?全然戦争っぽくない。  あたしは戦争が始まる前と何も変わらない生活をしている。あたりまえのように出歩いて、あたりまえのように生活している。  仕事だって、いつもどおり。  お客さんの出入りだって、いつもと変わらない。  何も変わらない毎日なのに、戦争だって言われても、全然実感が無い。  たまに、飛行機がいっぱい飛んでいくことがあるけど、あたしが戦争を実感するのはそのときだけ。
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