第1章

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 なんでだろう?全然戦争っぽくない。この国も戦争に巻き込まれてるっていうけど、この国のどこで、誰が戦争で死んでいるんだろう?  全然実感が湧かない。    お休みの日、おうちの庭にある、小さな池のそばに行く。  太陽がきらきら反射して、とってもまぶしい。 「おーい、長老。あつくないかー?」  あたしは池の鯉に声をかける。  長老はあたしが名前をつけた、あたしが子供の頃からいる鯉だ。  何かあったとき、あたしは長老に話しかける。 「長老、草介さん帰ってこないよー」  きらきらと水面が激しく光る。まぶしくて長老が見えないから、あたしはあてずっぽうに池に向かって話しかける。  そんなに大きい池じゃないから、どこに向かっても大体おんなじだよね? 「もう、いちねんだよー?手紙くらい欲しいよねー?」  長老がバチャリと水面を叩く。  のんびりしてるところ、邪魔しちゃったかな?  そうだよね。長老だって、一々あたしの愚痴なんか聞いてらんないよね? 「草介さん、帰ってこないかなー?」  もう一回、今度は空に向かってあたしはつぶやいた。  お天道さんには聞こえたかな?  しばらくしたら、ホントに草介さんは帰ってきた。  戦争は終わってないのに。  どうして帰ってこれたの?って聞いたら、休暇で一旦帰ってきただけなんだって。  またすぐに行っちゃうんだ……  「ねえ、草介さん。戦争戦争って騒いでるけど、この町は平和だよ?本当に戦争は起きてるの?」 「うん、戦争は本当に起きてるよ。文は戦争って言うと、たくさんミサイルが落ちてきたり、空襲があったり、銃撃戦があったりっていうのを想像してたんじゃないかな?」 「うん」 「そういう戦争が起きているところもあるよ。ただ、今起きてる戦争のほとんどが、傷つけない戦争なんだ。相手を完全に倒すんじゃなくて、相手をできるだけ無傷で戦う力だけを奪おうとするんだ。だから、ほとんどどこの国も人の住んでいるところが攻撃されることは無いんだ。だから、みんなが想像するような戦争は、港がある町の周りや、空港のある町の周りでは起きてるらしい。あとはほとんど軍隊同士の喧嘩みたいなもんさ」  ふうんって、あたしは相槌を打った。  よく分からないけど、とりあえず、町にいたら大丈夫なんだってことは分かった。    草介さんの休みは十日あって、町にいられるのはせいぜい一週間なんだって。
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