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正刈草雄くんの場合
『やあ、久しぶり。
オカルト研究会で、今度合宿行くんだって?
いいなあ。
でも心霊スポット巡りってのは、ちょっと引くけど。
僕は相変わらずアルバイトさ。
えっ、顔色が悪いって?
うん、ちょっとね。
そう、話を聴いてくれるかい?
きみの、オカ研部員の意見を聴きたかったんだよ。
ありがとう。
あっ、でもさ、話の途中で、「じゃっ、失敬!」なんて言って逃げないでよ。
大丈夫?
マジ、怖いよ。
オカ研部員だから慣れっこ?
いや、少し違うかも。
僕は、 “いりなか” の 、学生専用マンションに住んでるだろ。
そうそう、あのマンションだよ。
それがこの頃部屋に帰るのが、コワくなっちゃって……。
お化けでも出るのかって?
いや、むしろ幽霊のほうがマシかも。
うん、そうなんだ。
きみの言う超常現象とやらかもしれない。
この半月ほど前から、妙な事が起きてるんだよ。
僕は昼間は大学の講義、夕方から夜まではアルバイトの毎日だからさ、実際それまでは、ゴミ屋敷とまではいかないけど、まあ、汚い部屋だったんだ。
ああ、きみも掃除は好きじゃないんだね。
カップ麺の容器なんかさ、燃えるゴミなのかどうかさえ知らないんだよ。
それと頻繁に、わけの解らないDMも来るしさ。
だからゴミの日は、テキトーに全部袋にひとまとめさ。
でね、ある日アルバイトが終わってさ、マンションに戻ったんだ。
そしたらさ、綺麗に片付いてるんだよ、部屋の中が。
もしかして留守中にお袋が来たのかと、実家に電話を入れた。
そしたらお袋が電話口に出てきて、おまえのマンションなんて入居以来行ったことがないって言うんだ。
いやいや、自分で片付けたら覚えてるさ。
それからだよ。
毎日帰宅すると、部屋はもちろんのこと、シンクやお風呂にトイレまで。
まるで掃除業者がプロの手腕を発揮したみたいに、ピッカピカになってるんだ。
日を追うごとに綺麗になっていくんだよ。
まるでモデルルームみたいにね。
玄関は、きっちり鍵を掛けて出るしね。
まさか大家さんが、無償でしてくれているわけないし。
玄関ドアも、ベランダ側の窓もしっかり施錠されてるんだ。
もしかすると自分で掃除したのを忘れるくらい疲れてるのかな、なんて思ったり。
だからね、試しにさ、空き巣が入った後のように、机や棚からすべてひっく
り返したような凄まじい状況にして出かけたんだ。
いくらなんでも、これなら無理だろうってくらい。
自分でもマズイかなって。
もし帰ってきて片付いてなかったら、二、三日寝込むくらいの荒れようにしちゃったんだよ。
考えが、浅はかだった。
帰ってみて、驚いたなんてもんじゃない。
見事に、綺麗に整理されていたんだ。
しかもだよ、僕が普段仕舞ってある通り、ひっくり返す前に写真で撮っておいたかのように、品物が元通りに片付けてあったんだ。
これって、ナニ?
いや、あの部屋が「事故物件」なんて聴いてないし。
整理好きのゴースト?
それとも綺麗好きな妖怪?
うん、何も紛失はしていないよ。
机の引き出しに適当に入れておいた小銭も、まったく同じ位置にね、戻してあったさ。
硬貨の表裏まで正確に直してあった。
僕、五円玉だけを「裏向け」にしておいていたんだけど、きっちり「裏に向けて」あった。
しかもさ、包丁までもが新品同様に研いであったんだ。
ご丁寧にシャツやズボンまで、綺麗にアイロンがけされて、たたんであったんだよ。
僕の部屋には、砥石やアイロンなんて置いてないんだ。
もう怖くなってさ。
いや、本当だって!
僕が君にウソをつく理由があるかい?
それよりもね、もっと戦慄することが起きるようになったんだ。
聴いてくれるかい?
いや、「じゃっ、失敬!」って、ちょ、ちょっと待ってよ、ここからが本題なんだよ、逃げないで聴いてよぉ!』
果たして草雄くんはオカ研の友人に、最後まで話を聴いてもらえるのか?
つづく
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