花火の見える丘へ、

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「もうっ、少し……」 暑い暑い夏の夕方、町内会の花火大会の日。僕は去年発見した穴場スポットへと向かっていた 誰にも知られていなくて穴場スポットというよりは、登るのが大変すぎて誰も来ないというのが実際のところなのだが 「相変わらず体力ないなあ。少し運動したほうがいいよ、ジョギングとかさ」 「絶対いやだ。こんな暑い中走れない、絶対に死ぬ」 「アタシも一緒に走ってあげるからさ」 「それなら、考えーー」 「ーーあ、でもムリだ。アタシ走れないわ」 彼女のあっけらかんとした声がカラッカラの空を突く。僕はただひたすらまっすぐ、丘の頂上を見据えながら登っていた 「……だろ。坂を登るだけでも大変なのに、こんな暑い中走るのは絶対にヤダ と言うかこんなに頑張って登っている時点で明日筋肉痛になるのは確定みたいなところあるじゃん、その時点でヤダ」 「まーた、子供みたいなこと言って」 「まだ子供だよ」 「高校生はもう子供じゃないの」 「えっー、でも大人って感じでもないだろ」 「それはあれよ。子供と大人の間くらいなの」 「はぁ、そういうもんなのかねえ」 僕はため息を漏らした。もう足はブルブル震え始めているが、まだ半分といったところだ いっそここから花火が見えてくれればいいのにな、帰りもあるんだぞ…… とても足が痛い。明日は筋肉痛だろう、間違いない 帰ってからのことを、明日以降のことを考えると心が一段と重くなった 「ねえ、幼稚園の頃のことって覚えてる?」 「うーん、覚えてないなあ。僕は保育園だったから」 「もう、すぐそういうこと言うんだから。じゃあ保育園の頃のことを言ってくれればいいでしょ」 「ごめんごめん。でも覚えてないよそんな昔のこと、保育園にこんな場所があったような……とかくらいかな」 「だよね、アタシもそう……」 会話はそこで止まる。 なんとなく、なんとなくだけど少し寂しさの混じった沈黙 僕は足を止めることなく、丘を登り続けた
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