花火の見える丘へ、

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「で、なんで急にそんなこと聞いたの」 「えっ」 「さっきの。子供の頃のことを覚えてるかどうかって」 「あ、ああ……なんか寂しくなっちゃって」 「子供の頃のことを忘れてることが?」 「ううん、それは全然。だってもう忘れちゃったことだから」 「じゃあ何?」 「今、ーー」 一息。もう一息で丘の頂上にたどり着く 「ーー今こうして丘を登っていることも、花火を見るのを心待ちにしていることも……君とこうやって話をしていることも。いつか忘れちゃうのかなあと思って」 「忘れないよ、もう大人なんだから」 「どうだか。来年の今頃には『そんなこと言ったっけ?』なんて言ってるよ、どうせ」 カラカラと彼女は笑った 忘れないよ、だから今日もこうやって登りに来たんだろ 僕はそう強く思った。カラッカラになった僕の喉から、それが声になることはなかったけれど 「忘れないよ、絶対」 「忘れるよ、絶対」 即答だった。 まったく。そこは忘れないって言ってくれればロマンチックなのに……彼女には昔からそういうところがあった 「……じゃあ、また見に来ればいいだろ」 「え?」 「だっだから、、来年も、再来年も、その次も、その次の次も。もっともっと、何度でも何度でも。また見に来ればいいじゃん」 「……おおっ、お主さては天才か?」 「だろ? もっと褒めてくれてもいいんだぜ」 得意げにしている僕の顔を見て、彼女は笑った 「ふ、ふふっ……でも今の言葉、プロポーズに聞こえなくもないかも」 「ぷ、ぷろ、、へっ?」 「『来年からもずっと、俺の隣で花火を見てろよベイベー』……的な。ふふふ」 「あ、あっ。いや、違っ、、違くて、そう言う意味じゃなくて」 「へえーそれはそれで傷つくなあ。アタシのこと嫌い?」 にやにやと笑っていた彼女から僕は目をそらした そんな訳ないだろ その言葉を僕は胸の奥にしまい込んだ。こちとら男子高校生なんだ、好意を素直に伝える言葉を口にするのは少し恥ずかしい 「うそうそ、分かってるよ」 「くっ、イタイケな男子高校生の純情を弄ぶなんて……ひどいわ、お姉さまっ」 「ふふっ、何キャラなのよそれ」 僕は一息をついた。足を止めて全身の力を抜く、到着だ。
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