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僕とダークが広場の大時計の前に着く頃には、日が沈み、もうすっかり暗くなっていた。
長年の慣れか、視界は通常通りに利く。
ダークはというと、左目にいる。……いるっちゃ、いるんだけど。正確には僕と一体化してる…てのが合ってるかな。
そうすると、どんな動物にも楽勝くらいの動体視力・運動神経が得られる。
(別れたら二分の一くらい)
更に近づいてみると、大時計周辺には多くの人々が溢れかえっていた。
『なんかの祭か……?聞いてみるか、ライ。』
『そうだね。』
互いに相手が何を考えているのかが、声に出さずとも伝わってくる。
それで、話す・動かすの大体の行動が僕の意志になる。
「すみません。お尋ねしたいことがあるのですが…。」
近くにいた背筋のキレイな老婆に声をかける。
「あら。今日、入ってきた旅人さんね?私が答えられる範囲で良ければ…。」
「あの、今日は何かのお祭りですか?人集りが凄いですけど…。」
「いいえ。…その逆、ですね。」
「逆?」
老婆は少し困ったような顔をして答えた。
「実は、“この大時計を盗む”と犯行予告がきたらしいのですよ。…あっ、盗むのは時計の針なんですけどね。」
「そうなんですか。そんなに高級な物なんですか?」
「ええ。二本の針に宝石をふんだんに使っていて。それを盗もうとする人が年に数回いるんですよ。でも毎度、正体不明の正義のヒーローが守っているので大丈夫なんですけどね。」
老婆はにっこり笑って、ではこれで。と去っていった。
『あの老婆は妙に詳しいんだな。人は見かけによらんな。』
『まあ、多分テレビとかでやっているんだろうな。これだけ人が集まっていればね。』
そのとき、柔らかな向かい風が木々を揺らした。時計台の方へと向かっていく。
『……行くか?』
『…何のこと?』
『ライだって気付いたくせに何を言うか。』
『……まぁ、見学程度でね。』
ライは地面を軽く蹴ると木々の隙間へと姿を隠した。
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