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そういえば里香は「伯母さんっ子」だった。
小さな頃、多忙な叔母にかわってうちの母親が彼女の面倒を見ていた。
それに恩義を感じているのか、それとも単純に相性がいいのか、里香は私よりよほど母と馬が合うし仲がいい。
過干渉で主体性に乏しい、前時代的な価値観をことあるごとに振りかざす母を私はあまり尊敬できなかったが、彼女にとっては「古き良き母」を体現する存在であるらしい。
「最近、西川くんとはどんな感じ?」
突然、彼氏を話題に出されて面食らう。
「お互い忙しくて、もうひと月会って無いんだよね」
深く考えず答えると、里香は「えーっ」と叫んだ。
「一ヵ月も? 忙しいかもしれないけど、無理にでも時間空けてデートしなきゃ。自然消滅しちゃうよ!」
先のことを考えていないわけではない。
今の彼と結婚したらどうなるだろうと、シュミレーションしたことは何度かある。
しかし自分が誰かと結婚して、子供を産むというビジョンがどうしても見えてこない。
里香のように心身をすり減らしてまで、子育てがしたいとは思えない。
お一人様の今ですら、自分のことで手一杯なのに。
かと言って、心身をすり減らしてまで仕事に打ち込みたいわけでもない。
夢や希望が見えないから、目の前の現実にしか意識が向かない。
ぐるぐると答の出ない問いが頭の中で渦を巻く。
どうしていちいち、こんなにしんどいんだろう。
どうして私たちはもっと自由で、勝手気ままに、何にも縛られず、人目なんて気にせず生きてゆけないんだろう。
ーーーー早苗はいつ結婚するの?
以前母からぶつけられた言葉が脳裏によみがえる。
「……余計なお世話だよ」
思わず呟くと、すれ違いに歩いていた大学生くらいの男の子が怪訝そうに私を一瞥する。
兄弟の娘なら「姪」だけど、従妹の娘は何と呼ぶんだろう。
そんなことをぼんやりと考えながら、遠ざかってゆく従妹とベビーカーをしばらく眺めた。
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