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「何と言えばいいのか……このたびは本当に」
兄にも義姉にも、彼らの両親にもかける言葉が見つからない。
そして誰より、真っ赤に目を腫らして言葉を詰まらせる、目の前の青年が不憫だった。
姪が家の階段で転落死したと報せを聞いたのは、一週間前の深夜のことだ。
憔悴した兄と、青ざめた顔で押し黙った姉を手伝い、慌ただしく通夜から葬儀、焼骨までを済ませたのはまだ五日前。そして、今日は初七日だ。
「西野くん、来てくれたんだ。早苗ちゃん喜ぶね」
帳簿を眺めていた娘が、がぽつりと呟く。
今年のお盆で、もうすぐ昇進すると嬉しそうに話してくれた姪の姿が脳裏に甦る。
黒い額縁の中でぎこちなく微笑むその顔は、まだ若い。
享年三十一歳。あまりに急すぎる死だった。
一週間前に駆けつけたその日から、義姉の声を聞いていなかった。
弔問客に挨拶を返すことすらせず、虚ろな目でどこかをぼんやりと見つめ、時折、思い出したようにはらはらと涙を流す。
まだ体が辛いのか、義姉は今日も寝室のベッドに横になり、何度か休憩をとっていた。
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