叔母

2/12
11人が本棚に入れています
本棚に追加
/30ページ
*  *  * 「何と言えばいいのか……このたびは本当に」  兄にも義姉にも、彼らの両親にもかける言葉が見つからない。  そして誰より、真っ赤に目を腫らして言葉を詰まらせる、目の前の青年が不憫だった。  姪が家の階段で転落死したと報せを聞いたのは、一週間前の深夜のことだ。  憔悴した兄と、青ざめた顔で押し黙った姉を手伝い、慌ただしく通夜から葬儀、焼骨までを済ませたのはまだ五日前。そして、今日は初七日だ。 「西野くん、来てくれたんだ。早苗ちゃん喜ぶね」  帳簿を眺めていた娘が、がぽつりと呟く。  今年のお盆で、もうすぐ昇進すると嬉しそうに話してくれた姪の姿が脳裏に甦る。  黒い額縁の中でぎこちなく微笑むその顔は、まだ若い。  享年三十一歳。あまりに急すぎる死だった。  一週間前に駆けつけたその日から、義姉の声を聞いていなかった。  弔問客に挨拶を返すことすらせず、虚ろな目でどこかをぼんやりと見つめ、時折、思い出したようにはらはらと涙を流す。  まだ体が辛いのか、義姉は今日も寝室のベッドに横になり、何度か休憩をとっていた。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!