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いくら時代が変わっても、人間の基本は変わらない。
そこそこの年齢で相応の相手と結婚し、円満な家庭を築いて子供を産み育てること。
早苗は分かっているのだろうか。分かっているようには見えない――――目眩がする。
「お付き合いしてる人がいるなんて、知らなかったわ」
「早苗も三十だからなあ」
私たちの若い頃は、クリスマスが終われば叩き売られるケーキのように、独身の女が二十五歳を過ぎれば、売れ残りと揶揄される時代だった。
高校や大学を卒業し、二、三年お勤めして寿退職、なるべく三十までには出産。自由や願望を放棄して夫に、嫁いだ家に、自分の家庭に従順に生きる代償に、無難に、しかし穏やかに暮らしてゆける。
それは女の子が世間と交わす、暗黙の取引きだったはずだ。現にごく少数の特別な女性を除き、大多数の女は皆そうやって庇護を獲得し、生きてきた。
しかし、肝心の娘はどうだろう。
将来の話をするたび、私は仕事に生きると冗談めかすが、連日夜遅くまで働いても、お世辞でも給料や待遇が良いとはいえない。休日にもしょっちゅう呼び出され、酷い時は会社に泊まることすらあった。
いわゆる「ブラック企業」だが、以前転職を勧めたら、きつい口調で否定されてた。仕事が性に合っているらしく、本人に転職する気は至って無いという。
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