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 高い学費を払い、有名な私立の女子大に通わせたのは何のためだったのだろう。  時代が違うとは言っても、これじゃ約束が違う。声に出さず、胸のうちで嘯く。 「早苗だけよ、親戚中でまだ結婚してないの」  夫は何も答えず、黙って新聞をめくっている。言いようの無い苛立ちが胸を塞いだ。 「……分かってるのかしら」  早苗は分かってない。自分が置かれた状況を。  いくら晩婚化が進んだと言われても、三十代で結婚もせず実家にパラサイトしている女の子なんてごく一部のはずだ。  そういう女の子が……いや、もう「女の子」と呼んでいい歳ですらない。そういう女が他人の目にどう映るのか、自分が、そういう子供の母親が世間からどう思われているのか、全然理解していない。  “千佳子さんちは早苗ちゃんがずうっと家にいてくるから、寂しくなくていいわねえ”  お盆の時、親戚一同がそろった食事の席で、無邪気を装って私に嫌味をぶつけた叔母の声が脳裏に甦る。 「あの子なりに考えてるんだろ」  まるで無関心な夫の声に、体の中がふつふつと煮立つのを感じた。  この人は、いつだってそうだ。都合の悪いことからすぐ目をそらす。 さりげなく逃げて、決して向き合おうとはしない。     
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