叔母

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「ほら、部屋戻るぞ」 「よしよし、いたいのとんでけ、とんでけよ」  自分が親にしてもらうのを真似て、幼いなりに祖母を慰めてくれたのだろうか。 婿が気まずそうに子供を抱き上げる。 「こら。すみません、お義母さん」 「いえ、いいの。気を遣わせて、ごめんなさいね」  誰が悪いわけでもない。  皆それぞれ守る物が違って、それぞれ同じ程度にずるくて見栄っ張りで強(したた)かで、キャパシティが小さくて、根本的なところで弱くて、情けない。 私たちはきっと、同じくらい卑怯だ。 誰も彼もが同じくらい卑怯で、自身の卑怯さと同じくらい弱さをもて余ししまう生き物なのだ。  皆、矮小な身体に不釣り合いな密林を持て余し、なだめ、誤魔化し、時に目をそらして生きてゆくしかない。 だから人は見栄を張るし、嘘をつく。都合の悪いことからは逃げる。 果たせも果たされもしない約束にすがり付く。  私だって、決して兄のことを言えるような立場ではない。  そんなことは分かっている。 50年生きてきたのだ。骨身にしみて分かっているはずだった。  ――――なのにどうして、私は兄を許せないのだろう。 「ありがとう……」  子供特有の甘い匂いと、頭をなでる手のひらの柔らかな感触に、不意に胸の奥から熱がこみあげる。 「なかないで、ばぁば」 喉の奥で堪えていた嗚咽が、堰を切ったように溢れ出した。 「ありがとうね、咲良」 カーテンから差し込む西日が、小さな掌の血管を葉脈のように透かして浮き上がらせる。 差し伸ばされた温もりにすがるように、もみじのような掌を軋ませないように、私は孫娘の手をそっと握った。 【完】
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