第三章 Halte die Fahne hoch!(1)

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変事の帰結を見届けた月が地平に没し薔薇色の朝焼けに空が染め上げられる頃に至って、ホーエンローエの市民達は漸く己が街の陥落を知った。 日の出と同時に麺麭(パン)を買いにやってきた工人の棟梁が郵便局に押し入る『国衆』兵士の姿を見咎め息を切らして店の女将に御注進に及ぶや、赤煉瓦造の『鷲城』と正面広場を軸に放射状に広がる街の隅々にまで城市に起こる異変が忽ちにして知れわたる。 ホーエンローエ市民が夢の中に安らいでいる間に、城市は反逆者の手に陥ち、昨夜迄の支配者は暁には虜囚の身となり果てていた。 野次馬どもが広場に押し寄せる頃には『国衆』は軍管区庁舎、郵便局、士族互助金庫等を制圧すると共に城門を封鎖するに至った。 人と物と情報との流出入を統制下に置き、手早く占領を進めてゆくのは戦地でもお馴染みの仕事であったけれど、まさか己が連隊の所属する軍管区の首府でその業を披露してみせる事になろうとは誰一人として思いもよらぬ事であった。
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