第四章 Halte die Fahne hoch!(2)

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西方大陸に冠たる北天の覇者ヴェルディア帝国を統べるホーエンシュタウフェン家の居所にして帝国政治の中枢たる『皇宮』とは一つの宮殿を指す名称ではない。 『皇宮』とは即ち古北方様式の城壁を起源とする巨大な城壁の内側に抱かれた宮殿群の総称である。 帝室の居城にして主要な政務が執り行われる『聚楽宮』を中心に『獅子王宮』現・太上帝御所『琥珀宮』、『月光殿』、『瑪瑙館』といった大小様々の華麗なる宮殿や宮中祭儀の舞台にして帝室の氏宮たる『聖王ゲオルク大神殿』を筆頭とする伽藍が広大な空間の中に犇めき尖塔楼閣を林立させる様は圧巻の一言に尽きる。 殊に目を引くのは『聖王ゲオルク大神殿』の黄金の玉葱屋根であるが、これこそが古北方ヴェルディア様式の特徴である。 西方近古様式による高い鐘楼を備えた近衛通り一番街の『遷都記念大聖堂』の厳かにして優雅な佇まいも都人の誇りとするところであったが遥か遠い祖先の魂の息吹を今に伝える武骨な古北方様式の風情には、流行に聡く冷徹な審美眼を持つ都人達も言い知れぬ慕わしさを懐かずにはいられなかったのだった。 この古式の宮中祭儀の場であると同時に歴代宮廷神祇官長の居城でもあり、城壁内の建造物でも屈指の規模を誇る大伽藍である。
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