第四章 Halte die Fahne hoch!(2)

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「諸君、高らかに我らが軍旗を掲揚せよ! 大将領閣下の押し立てる御神旗に怯む事はない!我らが奉ずる軍旗は我ら『国衆』父祖伝来の法典である! 大将領閣下は神威を以て胸壁と為し、私心の儘に兵事に淫する奸賊である!我らを神敵逆賊と罵る道理は無い!我らが武を以て糾問の大義を示すのだ!神々よ御照覧あれ!帝国に栄光あれ!」 漆黒の愛馬に跨がり戦列の間を駆け巡るギルベルトの弁舌は流麗にして勇渾そのものであった。 優雅な宮廷訛りで紡がれる鼓舞と糾弾の言辞は激情に流れず一定の品性を保ちながら適切に兵どもを奮い起たせる韻律を備えている。 葦毛の愛馬クラリッサに騎乗し、その後ろに続いて全将兵に二角帽を振る皇女ザビーネ・マリア・フォン・グナイストは友の巧妙な扇動術に感嘆せずにはいられなかった。 〝帝国に栄光あれ!〟 ギルベルトが白い手袋に包まれた掌を挙げた刹那、天を震わせ地を揺るがすばかりの歓声が轟く。 六千七百余の将兵は今や一匹の巨獣に化身した。 六千七百余の思考と精神は統一され、一万を超える眼は一斉に彼方の敵を睨み据えている。 「総員己が務めに精励する事を期待する。状況開始だ!」 鋭い鳴音と共に滑り出した軍刀を天高く掲げ、灰色の髪の将領は雄々しき咆哮を響かせた。
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