第一章 Der Morgenstern (1)

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竜騎兵将校ふうの詰襟の軍服。 絢爛たる飾緒と金肩章の総飾り。 頸や胸板に燦然と輝く星々の如き勲章。 優雅な歩調に合わせて音を奏でる軍刀。 青空を映す艶やかな銀拍車の乗馬靴。 ・・・閲兵式へ赴く『皇帝陛下』の御姿は煌めくばかりに美しかった。 〝わたくしも、『へいか』になりとうございます〟 麗しい礼装に身を固めた父の許へ駆け寄った童女が声を弾ませる。 黒々とした豊かな髪を撫でて、皇帝陛下はなにがしかを囁かれた。 童女が見上げた眼差しの先-八字髭の下の唇はいとも慈愛に満ちた笑みに綻んでいる。 幼い皇女の耳に、父の言葉が届く事はなかった。 出御を告げる式部官の喇叭が、父娘の問答を遮ったのである。 童女が再び問い掛けようとすると、既に父は愛馬に跨がり颯爽と駆け出していた。 遠ざかる華麗な(そびら)を、幼子はただ見送る事しか出来なかった。
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