2.カイセイの平和なヒトビト

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 ヒスイが扉を開け放つと、さっそくよて亭の半分くらいを埋めるほどの客がなだれ込んできた。  どんどん客は増えていって、食べ物や飲み物を注文する者は奥へ、有料充電ポートだけを利用するものは手前のステージ近くを陣取る。 「みんな、来てくれてありがとう!」 「サンゴちゃん、今日はルビィちゃんはいないのかい?」 「ごめんね、ちょっと急用で。アオのギターで我慢して?」 「仕方ねえなぁ」 「俺のギターは我慢して聴くものなのか」  客とサンゴの言い草に若干げんなりとしながらも、チキンの分だけの仕事はこなす。  ギターでかき鳴らすのはラテン調のメロディ。  サンゴがその音楽に合わせてステップを踏む。短いフリルのついたスカートが揺れる度に、観客の男性陣が大喜びだ。 (ま、ぱんつは見えないけどな)  きちんと見えないようにペチコートパンツを履いている。  しかし、その見えそうで見えない太ももが常連客の男どもには大好評である。  機械化されていわゆる肉欲は消え去ったはずなのに、ヒトがニンゲンだったころから脈々と受け継がれるエロ魂は絶滅にはいたらない。  ちなみにアオは既になれきっていて、今更サンゴが腰を振って踊っていても特別何と思う所もない。  ついでにいえばアオのフェチは足よりはおっぱいだ。  結局誰も、煩悩は捨てきれない。  機械の回路は何故煩悩まで再現してしまったのか疑問だ。  疑問だが、基本的には踊り子におさわり厳禁をきちんと守れる清い大人の集まりなので、それだけでも機械化した価値はあったのかもしれない。  ご機嫌なメロディを奏でながら、アオは進化しきれない人類の性について想いを馳せていた。
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