3.ヒト≒ニンゲン

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「サンゴを連れていくなら、なるべく綺麗な場所がいいよなぁ」  女の子を連れて行っても安全で、しかも美しく見える場所。水に潜って水面を見上げるだけでも綺麗だけど、それでは遺跡探索の醍醐味は伝わらない。  いつも潜っては探検しているのは、昔の人間が住んでいたらしい集合住宅の遺跡だった。  長く水中に沈んでいるおかげで、大体の遺跡は水に浸食され崩れかけていて、危険だ。  湖だから海に比べれば浸食は少ないものの、逆に大丈夫そうに見えるけれど実は危険、といった場所が点在している。 「見て回るのは外側からだけにした方が無難か」  ぼやきながら水草の絡む瓦礫を乗り越えていくと、見慣れない光景が広がっていた。  この辺りは幾度となく通っているのに、そこは以前とはまるで変わり果てている。 「なんだ、これ……」  湖底の急斜面に、見覚えのない大きな横穴が空いていた。下の方に土砂が沈んでいるから、崩落によって姿を現したのだろう。  横穴にライトを当てると、部屋らしき空間があるのがわかる。  そういえば一週間ほど前に大雨が降ったのだ。その時に異変が起こったのかもしれない。 「未発見の遺跡か!」  安全に、綺麗な湖底の風景を楽しめる場所を探す。そんな当初の目的は、新たな探検場所の発見によって、綺麗に覆されてしまった。  今までみられなかった光景が見られるのだ。好奇心に抗いきれなかった。  アオはその横穴がしっかりとしていて、崩落の恐れが薄そうなことを確かめつつ、少しずつ奥に入り込んでいく。  建物が丸ごと土砂に埋まっているようだった。ところどころ土砂の重みに潰れているものの、まだ部屋の形が残っている。  サルベージ業者に教えたら喜びそうな物件だ。 有用なものを根こそぎ持っていかれて美観を損なってしまうので、あまり教えたいとは思わないが。 「これだけ残っているなら、どこかにすごいものが眠っていそうだなぁ。面白いものが見られそうだ」  階段の跡を降りたり上ったり、まだ通り抜けできる廊下を進んでいるうちに、アオはずいぶんと深くまでやってきていた。  たどってきた道筋はきちんと把握している。とはいえ、少し長居しすぎたかもしれない。  そろそろ戻ろうかと、これで最後のつもりで階段を上ると、ライトの光が水面のゆらめきを映し出した。
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