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――水面?
この湖は、決して浅くはない。この遺跡は完全に土砂に埋もれていたはずだから、たとえ湖面より上に出たのだとしても、光が差していないところを見ると出口ということはなさそうだ。
崩落を免れた部屋が、この先にある。
気づいたら、危険かもしれないなんて考えは、消し飛んでいた。
水を掻き、瓦礫に足をかけてよじ登り、どうにか重い身体を水面へと運んでいく。
夢中だった。つき動かしていたのは、何だったのだろう。
好奇心か――あるいは、本能だったのか。
その水面の向こう側へと、水の抵抗をもどかしく思いながらよじ登る。
ライトが、暗闇の中を照らし出した。うすぼんやりとした光が、しんと静まり返ったその空間の輪郭を浮き上がらせる。
そこは、真四角の部屋だった。アオはゆっくりと部屋に這いあがると、その異様な光景をまじまじと観察する。
壁は無数のパイプと基盤でびっしりと埋め尽くされていた。
機械室のようなものだろうか。
『旧人類』の遺跡でこういった機械が綺麗に現存しているのは珍しい。本当に人の手がほとんど入っていないのだ。
永い間密室だったからなのか、意外と埃は積もっていない。
だが、湿気はやはり入り込んでいるらしく、表面には錆びなどの劣化が目立つ。
足元に気を付けながら、ライトを高く掲げて部屋の全貌を見ようとした。
そこには――。
「何だ……これ」
黒い楕円形の影がびっしりと床を埋めている。
一瞬何かの生き物に見え、足がもつれて尻もちをついてしまった。
ガタン、と防水ライトが落ちる音。しかし黒い影は微動だにしない。
「ただの装置、か。驚かせるなよなぁ」
自立機械ですらないようだ。
考えてみれば、自立機械が発展したのはヒトが機械化された後のことなのだ。
『旧人類』の時代は、自立機械はそれなりに普及していたものの、まだアナログで対処していたケースも多かったという。
この装置も人間が手動で操作する必要がある類のものなのだろう。
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