3.ヒト≒ニンゲン

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 ――水面?  この湖は、決して浅くはない。この遺跡は完全に土砂に埋もれていたはずだから、たとえ湖面より上に出たのだとしても、光が差していないところを見ると出口ということはなさそうだ。  崩落を免れた部屋が、この先にある。  気づいたら、危険かもしれないなんて考えは、消し飛んでいた。  水を掻き、瓦礫に足をかけてよじ登り、どうにか重い身体を水面へと運んでいく。  夢中だった。つき動かしていたのは、何だったのだろう。  好奇心か――あるいは、本能だったのか。  その水面の向こう側へと、水の抵抗をもどかしく思いながらよじ登る。  ライトが、暗闇の中を照らし出した。うすぼんやりとした光が、しんと静まり返ったその空間の輪郭を浮き上がらせる。  そこは、真四角の部屋だった。アオはゆっくりと部屋に這いあがると、その異様な光景をまじまじと観察する。  壁は無数のパイプと基盤でびっしりと埋め尽くされていた。  機械室のようなものだろうか。  『旧人類』の遺跡でこういった機械が綺麗に現存しているのは珍しい。本当に人の手がほとんど入っていないのだ。  永い間密室だったからなのか、意外と埃は積もっていない。  だが、湿気はやはり入り込んでいるらしく、表面には錆びなどの劣化が目立つ。  足元に気を付けながら、ライトを高く掲げて部屋の全貌を見ようとした。  そこには――。 「何だ……これ」  黒い楕円形の影がびっしりと床を埋めている。  一瞬何かの生き物に見え、足がもつれて尻もちをついてしまった。  ガタン、と防水ライトが落ちる音。しかし黒い影は微動だにしない。 「ただの装置、か。驚かせるなよなぁ」  自立機械ですらないようだ。  考えてみれば、自立機械が発展したのはヒトが機械化された後のことなのだ。  『旧人類』の時代は、自立機械はそれなりに普及していたものの、まだアナログで対処していたケースも多かったという。  この装置も人間が手動で操作する必要がある類のものなのだろう。
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