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天井が割れた。
本当に割れたのだ。綺麗に、真っ二つに。
アオの目には、土と引き裂かれた芝生の残骸が怒涛のごとく部屋になだれ落ちる様子が映っていた。
幸いというべきか、天井は観音開きをしたようで、落ちてきた土の量はその轟音に反してたいしたことはない。
スライド式だったら、土砂の流入で生き埋めになったかもしれなかった。
「地上に繋がっていたのか……」
どうやら、ここは湖のすぐ隣に埋まっていた場所のようだ。
土をかぶった濡れ髪が、泥で黒く染まっている。うんざりとしながら、アオは部屋の隅から這い出した。
まさか部屋の機能が生きているなんて思わなかった。
「はぁ、爆発とかしなくて助かったけれども、結局何の部屋でどういう装置なのかよくわからな…………んん?」
首を傾げながら辺りを見回すと、白い水蒸気のようなものが足元に漂っていることに気がつく。
どこかひんやりとしていた。かすかにアラームらしき音もしている。
「装置がまだ動いている?」
アラームの音をたどって土の山を越えていくと、埋まることを免れたクジラ型の装置のひとつが、白い煙を大量に吐き出している真っ最中だった。
(なんか、まずい気がする……)
さすがに、ついさっき不用意にスイッチに触れてしまって、こんな事態になったばかりなのだ。近づくのはためらわれる。
見なかったことにして、帰ってしまうべきではないだろうか。
アオがそう思うのを、誰も責められないだろう。
何せアオは遺跡探索が趣味なだけで、専門学者でもサルベージャーでもない。
湖と繋がっている入口は土を被ることを免れているのだから、このまま戻ってしまっても構わない気がした。
「あ、こっちからでも外に出られるのか」
アオは壁に梯子が取り付けられていることに気がついた。
天井が開いたことで、部屋に自然光が入って様子がしっかりわかるようになったのだ。
今日は戻って、サルベージ業者にここを紹介しよう。
発掘は業者の仕事だし、謎の解明は学者がする仕事だから。
さすがに好奇心よりも危機感の方が勝ったアオは、踵を返す。
梯子が劣化していなければ、このまま登ってしまえるだろう。あとは湖で泥を洗って、何食わぬ顔で街に帰る。
それでアオの日常は戻ってくるはずだった。
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