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それが、圧縮された記憶情報の海に沈んで引き上げられないだけなのか、それとも本当に彼女のことを何も理解していなかったのか。
――あんなに、大切だったのに。
それならどうして、彼女の記憶を圧縮してしまったのか。
順次圧縮されていく過去の記憶の中でも、大切なものは残る。
記憶の取捨択一をくりかえし、どうでもいい記憶から消えていく。
ヒトの記憶はそういう風にできている。
――どうして、どうして。
夢の中で、アオは混乱していた。
すぐそばにいるのに彼女の顔が見えない。どうしても思い出すことができない。
そこで、気がついた。
機械化されたヒトの世界では、子供と老人はほとんど存在しない。
大体が青年期の姿をしていて、タイプによっては中年であったりもする。
だいたい、若くても十五歳前後の少年期の姿だ。
単純に、子供や老人でいる意味がないのだ。
子供の型でできる仕事などあまりない。
狭い場所の作業はヒトではなく感情を持たない自立式小型機械が担当する。
子供は生まれるものではない。作るものだ。
『旧人類』の家族を真似てみたいヒトへのサービスとして、『子役』や『老人役』という職業なら一応ある。
あとは『旧人類』時代の物語を演目にする歌劇や映画出演にも、彼らが駆り出される。
しかし、需要がさほどあるわけではないから、必要とされた時だけカスタマイズされたボディに乗り換えることが多いようだ。
アオは少なくとも、常時『子役』をしているヒトに会ったことはない。
少なくとも、記憶に残る限りでは。
愛おしげに「お姫様」と呼んで、ギターを弾いてあげた少女。
確かに過去にあったはずの、この世界にはほとんどいないはずの『子供』。
彼女は――誰だ?
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