4.コドモのいない世界の子供

3/7
前へ
/136ページ
次へ
 つんつん。つんつん。  かすかに頭皮を引っ張られる感触に、アオの機能が休眠状態からの回復を開始する。  何だか酷く懐かしく、そして哀しい夢を見ていた気がするけど思い出せない。  夢とはそういう物だ。圧縮された記憶の残滓。  休眠モードから回復すれば、また記憶の奥底に閉じ込められる。  つんつん、つん。 「んん?」  指令信号が体中を駆け巡り、完全に覚醒した。目を開ける。  すぐ隣で、むすっとした顔をした女の子が、つんつんつん、と延々とアオの額を指でつついていた。  そこでアオは、昨日の顛末を一気に思い出すこととなった。  夢の余韻など一瞬で吹き飛ぶ。あの遺跡から、この子供を連れ帰ったのだ。 「こ、こら、やめてください!」  あわてて彼女の手を追い払い、アオは起き上がる。  女の子はだぼだぼのTシャツの裾をつかんで、ぷうっとふくれっ面をしている。  シャツはアオが昨日、とりあえず裸はまずいからと貸し与えたものだ。  おかげでアオは素肌にパーカーで帰ることになった。  夏場で良かった。機械の身体になることで風邪という病気を克服した現人類でも、冷え切ったら動作は鈍る。 「また、そのシャツ着てるし……」  成人男性用、それも丈が長めのものだったので、少女が着るとミニスカートのワンピースくらいだ。  しかし、肩からずり落ちかけている。これを彼女の服にするのは無理があるだろう。  どうしたものかと頬をかきながら、とりあえず「おはよう」と言うと、彼女もむすっとした顔のまま答える。 「……おはよーございます」  どうやら相当、ご機嫌斜めのようだ。  ひとまず、アオはこの女の子と向き合うことにした。  目下の問題は服だ。  実は昨日の時点で、彼女でも裾を折りたたむだけで何とか着られそうなシャツと、ゴムのミニスカートを買って来ていた。  十五歳くらいの外見を想定して作られたスカートなので、少女にはひざ下丈になるが、着られないことはない。  ベルトをつければ腰回りのゆるさもなんとかなるだろう。  しかし与えたそれらを全部無視して、彼女はアオのTシャツを着ているのである。
/136ページ

最初のコメントを投稿しよう!

29人が本棚に入れています
本棚に追加