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つんつん。つんつん。
かすかに頭皮を引っ張られる感触に、アオの機能が休眠状態からの回復を開始する。
何だか酷く懐かしく、そして哀しい夢を見ていた気がするけど思い出せない。
夢とはそういう物だ。圧縮された記憶の残滓。
休眠モードから回復すれば、また記憶の奥底に閉じ込められる。
つんつん、つん。
「んん?」
指令信号が体中を駆け巡り、完全に覚醒した。目を開ける。
すぐ隣で、むすっとした顔をした女の子が、つんつんつん、と延々とアオの額を指でつついていた。
そこでアオは、昨日の顛末を一気に思い出すこととなった。
夢の余韻など一瞬で吹き飛ぶ。あの遺跡から、この子供を連れ帰ったのだ。
「こ、こら、やめてください!」
あわてて彼女の手を追い払い、アオは起き上がる。
女の子はだぼだぼのTシャツの裾をつかんで、ぷうっとふくれっ面をしている。
シャツはアオが昨日、とりあえず裸はまずいからと貸し与えたものだ。
おかげでアオは素肌にパーカーで帰ることになった。
夏場で良かった。機械の身体になることで風邪という病気を克服した現人類でも、冷え切ったら動作は鈍る。
「また、そのシャツ着てるし……」
成人男性用、それも丈が長めのものだったので、少女が着るとミニスカートのワンピースくらいだ。
しかし、肩からずり落ちかけている。これを彼女の服にするのは無理があるだろう。
どうしたものかと頬をかきながら、とりあえず「おはよう」と言うと、彼女もむすっとした顔のまま答える。
「……おはよーございます」
どうやら相当、ご機嫌斜めのようだ。
ひとまず、アオはこの女の子と向き合うことにした。
目下の問題は服だ。
実は昨日の時点で、彼女でも裾を折りたたむだけで何とか着られそうなシャツと、ゴムのミニスカートを買って来ていた。
十五歳くらいの外見を想定して作られたスカートなので、少女にはひざ下丈になるが、着られないことはない。
ベルトをつければ腰回りのゆるさもなんとかなるだろう。
しかし与えたそれらを全部無視して、彼女はアオのTシャツを着ているのである。
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