4.コドモのいない世界の子供

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「着替え、用意したでしょう。それに着替えてください」 「やだ」  ベッドの上に置かれた服を指差しても、彼女はぷいっとそっぽを向くばかりだ。  対話が成立しない。子供心は難しい。  そもそもこの世界で子供心をわかるヒトがどこに存在するのか。  アオは自分の寝ていたソファの上に彼女を座らせて、使っていた毛布をたたみはじめる。  ベッドをこの少女に譲ったので、ここで寝るしかなかったのだ。 「だって、いつまでもサイズの合わない俺のシャツ着ているわけにもいかないでしょう?」 「かわいくないんだもん」 「わがまま言わないでください」 「わがままじゃないもん!」  彼女はさっきまでアオが枕がわりに使っていたクッションを引っつかむと、渾身の力で投げつけてくる。  毛布を抱えていたせいで両手がふさがっていたアオは、防ぎようもなく顔面にクリーンヒットを食らった。 「ぶ、……こ、こら! いいから着替えてください!」 「いーやーだー!」  次はソファの下に落ちていた本がとんできた。やはり顔面にクリーンヒット。  クッションほどの大きさはないものの、地味に痛い。  機械の身体でも痛覚に等しいものはあるのだ。  そうしないと故障に気づけないからであるが、今はその機能を恨みたい。 「お、お願いだから着替えてください。俺、これから仕事に行くんですからね? そのTシャツじゃお外に出られませんよー?」  手を合わせて拝んでみたけれども、答えは丸めたタオルの塊となって返ってきた。  というか、手当たり次第に物が飛んでくるようになった。  投げつけられたものを避けて、片付けて、なだめてすかして。  どれだけそれを続けていたのか。  気づけば時計の針は回り、そしてドンドンドン、とけたたましくドアを叩く音が響き渡る。 『アオ、いないの?』  ドアごしに聞こえる、来客の声。サンゴだ。  昼の部で一緒になる時は大体行きあわせるのに、今日はアオがなかなか姿を現さないから気になったのだろう。  アオは寝起きのままだった服をあわてて着替え、玄関のロックを解除する。 「開けたよ!」
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