4.コドモのいない世界の子供

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「アオ、何やってんの?」  扉を開けたピンクの髪を持つ少女は、目を丸くしながら部屋の中を見回し、そう呟く。  無理もない。  あの女の子が手当たり次第に物を投げてきていたので、部屋中惨憺たる有様だ。  非力だからなのか、旧人類のことわざで言う所の『武士の情け』というやつか、本よりも重量級のものは飛んでこなかったのが救いである。 「……お願い、助けて」  アオはぐったりとしながら、その場にへたり込む。  大荒れになった部屋の中で、外見年齢十歳にも満たない小さな女の子がわんわんと声をあげて泣いているという状態に、サンゴはいまだに目をぱちくりとさせていた。 「どゆこと?」  サンゴがコキリと右に首を傾げる。濃いピンクの髪がさらりと頬にかかった。  彼女に上手く説明できる気がしない。  アオだって、できれば誰かに説明して欲しいくらいなのだ。  身体を機械化された人類には、子供型などほとんどない。  『子役』以外にも、純粋に趣味で子供のボディを手に入れるヒトもいるにはいるのだろうが、純粋な意味での『子供』はいない。  要するに、限りなく純粋な意味で『子供』である、このメイドイン遺跡の少女への対処など、アオが知るよしもないということだ。  この状況をどうにかすることはもちろん、説明のしようもないのである。 「んん? その子役、誰?」 「それ、俺も知りたい。あと、この子は子役じゃない」  実際、彼女が一体どこの誰なのかをアオはまだ知らない。名前を言ってくれないのだ。 「だから、どゆこと?」  再び疑問形。今度は左がわに首がコキリ。 「ああ、わかった。順を追って言うから」  この光景をすんなり納得してもらうのは無理がある。  アオは説明を求めるサンゴの眼差しを手で制すると、目下の問題にとりかかることにした。  すなわち、お着替えである。 「はい、それじゃあこの服に着替えてくださいねー」 「やだぁ! もっと違うのがいいー!」 「でも、俺なりに、選択肢が少ない中で、ちゃんと似合いそうなのを買ってきたつもりなんですよ……?」  もう一度、ベッドの上の服を指さす。赤やピンクの鮮やかな色の服。  だぼだぼで、今にも肩がずり落ちそうになっているアオのTシャツよりは、こちらの方が断然良いと思うのだが。
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