5.ヒトと幼女とエンゲル係数

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 髪の毛は一見無関係のようだが、一応根拠がある。  カイセイ近隣にかつて住んでいたと思われる『旧人類』は、大半が黒、または黒に近い茶色の髪を持っていたとされるからだ。  今のヒトは髪色を自由に変えられるし、髪の色を個性の一つと考えているから、独自の色に変えている場合が多い。  かつて『旧人類』が持っていた、黒や茶、金色といった髪の毛はまず見ない。  赤毛はいるが、かつてのような色合いの者はなかなかいないだろう。  自由な髪色は進化の象徴である。  パーツ交換一つで何とでもなるこの世界では「生まれつき」なんてナンセンスだ。  サンゴは「むー」と唸り声をあげて考え込んでしまった。  黙って話を聞いていたヒスイは、女の子にデザートのプリンを出してやると、カウンター越しに黒髪をくしゃりと撫でる。  女の子はすっかりヒスイに懐いてしまったようで、エヘヘヘとはにかんだ笑顔を見せた。 「そう思うなら、ここに連れてくるよりも先に『旧人類』学者のところに連れていくべきだったんじゃないの? まぁ、オススメはしないけれど」  ヒスイの言葉に、アオも額に手をあてつつ頷いた。  『旧人類』の遺跡が大好きな割に、アオがその手の学者を目指さなかったのには理由がある。  単純にギターを弾く方が性にあっていたというのももちろんあるのだが、『旧人類』学者には変人が多いのだ。  現在のヒトはニンゲンが進化したものではなく、かつては『旧人類』の奴隷であったものの末裔だと主張する者までいる。  そういうヒトがいるせいで、純粋な『旧人類』遺跡愛好家まで白い目で見られるのだから勘弁してほしい。  中には『旧人類』を神のごとく崇める宗教じみた連中もいるそうだ。  そんな盲信的なヒトビトが溜まっている界隈に、もしかしたら『旧人類』かもしれないという女の子を連れて行ったらどうなるのか、わからないほどアオも平和ボケしていない。  そこまで過激ではない知り合いもいるにはいるが、数日はひとまず様子をみるべきだと判断した。
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