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「うなじの充電コネクタがないけど、ひとまず食事でどうにかできるみたいね。その子の分くらいだったら、ツケにしといてあげるわ」
「ありがとう、ヒスイ姉さん。でも、ツケなんだね」
「食事は贅沢品なのよ、当たり前でしょ。給料から天引きよ」
「で、ですよねー」
ヒスイは容赦がない。
これから毎日食費がかかるとすると、自分の給料はどこまで減るのか。
アオは頭を抱えてカウンターに突っ伏した。
「アオ、どしたの?」
女の子がまたアオの髪をつんつんと引っ張りだす。
どうにも引っ張りたいお年ごろらしい。
「なんでもありません、なんでもありませんからね!」
(君の食費のことなんてちっとも気にしていない。気にしていないとも)
自分にそう言い聞かせた。『旧人類』は食費をこんなにかけて、どうやってやりくりをしたのだろうか。
当時は食事が必須だったわけだから、今よりはきっと安かったのだろうけれど。
「で、その子、本当に何も覚えてないの?」
尋ねながら、ヒスイは女の子の前に青い綺麗な色をしたソーダ水を置いた。
女の子は大喜びだが、アオはツケが増えている。頭と財布が痛い。
「名前も、家族も、どうしてあそこにいたのかも、何も覚えてないみたいだ」
「記憶喪失、ねぇ。機械ならデータの復旧でどうにかなるかもしれないけど、そういうわけにもいかないものねぇ」
この女の子が『旧人類』ならば、なおのこと。
記憶のことに限らず、怪我や病気になった時にも困ることになる。
謎と課題が芋づる式にどんどんふくれあがって、アオはそっとため息をついた。
今のヒトにとっては感情表現の仕草でしかないこのため息ですら、『旧人類』ならば呼気の排出を伴っている。
細胞レベルで違うのだ。簡単にはいかない。
(どこかでこの子の正体を確認しなくちゃいけないんだよなぁ)
それにこの子が本当に『旧人類』ならば、あの遺跡には他にもニンゲンが残っているかもしれないのだ。
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