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ヒスイが美人と称されるのは、彼女のご自慢の美しい髪と、お金をかけて手にいれた抜群のプロポーション、そして何よりもそこまでして整えた自分の美貌を別段鼻にかけることはしないさっぱりとした性格ゆえだろう。
彼女の堂々としたたたずまいが、美形度に確実にプラスされている。
店の名前は「よってっ亭」。社員寮といい、圧倒的なネーミングセンスのなさがヒスイの残念なところであり、チャームポイントでもある。
ちなみに従業員及び常連たちは「よて亭」と適度に略している。むしろ誰も正式店名を呼ばない。
よて亭の売りは美味しい食事とドリンク、そして、店の片隅にある小さなステージでのダンスと音楽演奏だ。
ヒスイを合わせて、この店の従業員は五名。
アオはそこでギターを弾く仕事をしている。暇な時は力仕事を手伝ったりもする。
ちなみにサンゴはダンサーだ。音楽に合わせてダンスをしたり、曲芸をしたりする。
楽器を壊してしまったルビィは、サックスを担当している。
彼女の相方のシオンは、主に裏方担当だ。あまり表には出ないが器用なので、ステージ衣装を作ったりヒスイの料理を手伝ったりする。
歌って踊って飲んで歌って。この店はちょっとした憩いの場なのだ。
機械でできている現代のヒトは、基本的に飲食を必要としない。
ケーブルでの充電が主だし、この店にだって有料サービスとして席に充電ポートが設置されている。
飲み食いでも処理してエネルギー変換できる仕組みはあるが、充電した方がよほど効率的だ。
それでもヒトは飲食できる構造を保持し、その一見無意味な『食事という趣味』を捨てられなかった。
合理化の果てにたどり着いた機械の身体でも、血肉で動いていた頃の食の喜びまでは忘れたくなかったようだ。
考えてみれば音楽だってダンスだって、生活に必要不可欠なものではない。
何だかんだで、合理的になったのは表面だけで、ヒトはまだニンゲンの頃と大した変わらない楽しみを胸に生きているのだろう。
要するに、よて亭はこれで意外に繁盛しているのである。
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