2.カイセイの平和なヒトビト

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「でさ、ルビィがサックスを壊したって、修理が済むまでずっと俺がギター係なのか?」  アオがギターの弦を調律しながらぼやいていると、サンゴは両手を顔の前でパン、と小気味良い音をたてて合わせ、そしてふかぶかとおじぎした。 「レンタルか中古探すって。いくらなんでも音楽なしで踊るのもねぇ。生演奏だってウリなんだし、ね。お願い」 「わかったよ。まぁ、ヒスイ姉さんの飯が食えるし……」 「そうそう、従業員へのウリは美味しいまかないご飯だから」  カウンターの奥でヒスイが笑う。よて亭昼の部は午前十一時から。今はまだ十時。もう少しだけ時間がある。時間がきたらすぐに混みあってしまうので、ご飯は早めに済ませた方がよさそうだ。  サンゴのダンスを目当てにきている輩も多いから、誰もが嗜好品である食事をとるわけではない。  ポートで充電料金だけ支払っていく客も多いし、飲み物だけ頼む客ももちろんいる。  ただでさえ狭い店に食べる目的以外の客までひしめくから、従業員がのんびりご飯をしている余裕などないわけだ。 「今日のまかないは?」 「チキン香草焼き」 「やったー、お肉だー!」  アオよりも先にサンゴが喜んだ。ダンス衣装を振り回しながら、ぴょんぴょんと跳ねて大はしゃぎだ。  無理もない。嗜好品である食事の中でも、肉は割と高級な部類に入る。  魚に比べて手に入りづらいし、食肉動物を飼育する大規模な農場は近場にないからだ。 「まかないなのに、いいの?」 「もらいものよ。ちょっとしかないからここの三人の特別よ。サックスが壊れなければルビィが食べられたのにね」 「それはそれは……ちょっとだけルビィに感謝しておこう」  ほかほかと湯気の立つチキンをほおばって、じっくりと味わった。  肉のうまみと香草の香りの情報が回路を駆け巡る。  この喜びを考えると、機械化してまで食事の喜びを捨てられないのは、やはり人の本能なのだと思う。 「やっぱヒスイ姉さんの飯は美味い」 「ふふふ、褒めたって何もでないわよー」  そういいつつ、ヒスイはソーダの上にアイスをサービスしてフロートにしてくれた。彼女はストレートな褒め言葉にめっぽう弱い。
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