2.カイセイの平和なヒトビト

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「ねぇ、アオ。本当にこの後、湖にいくの? いっそこのまま夜の部も手伝わない?」  隣の席でチキンをナイフで切り分けながら、サンゴはここまで持ってきた防水ライトと水着の巾着袋をじっと見ている。 「俺は非番なんだって言ってるだろ。勘弁してくれ。俺にとってニンゲンの遺跡巡りはロマンなんだ」 「だって、サルベージャーでもないのに湖にもぐるなんて、物好きの極みじゃん」 「皆、過剰に嫌がるけど、俺たちにはきちんと防水機構があるんだから、よほど大きな傷を作ってない限り、湖にもぐったくらいじゃサビもつかないからな? サンゴだってシャワーは浴びるだろ?」 「シャワーと水に潜るの一緒にしないでよぉ」  ヒトは機械でできているから、付着した汚れを洗い流す以外の理由で水にはあまり入りたがらない。  しっかりと防水対策をされているから大丈夫だとは理屈ではわかっていても、やはり内部機構に水が入り込んだら大変な事態になるという恐怖の方が強いようだ。  お風呂の湯船に浸かることもあまり好まず、大抵は皆、シャワーで済ませる。  もちろん、アオのように全く気にしないヒトもいる。水の底に沈んだ遺跡を発掘するサルベージャーは、専用の高機能な防水ボディを持っている者がほとんどだ。  アオはお金をかけてまで防水ボディにしてはいないが、正直少し憧れる。  すべてはロマンのためである。 「ニンゲンの遺跡は基本的に水の底だ。大昔の大洪水で沈んだまま、発掘は遅々として進まない。皆、水を嫌がるからだ。サルベージャーはいつも人手不足だってさ。この前、一緒に働かないかって誘われたよ。断ったけど」 「そこまで遺跡好きなら転職したらぁ?」  サンゴの眼差しが呆れを通り越して珍獣を見る目になりつつある。アオは苦笑いをしつつ彼女にデコピンをひとつくれてやった。 「しないよ。俺は演奏家の仕事も気に入ってるしね。あくまで趣味として追い求めているんだよ。遺跡の雰囲気が好きなんだ。別に仕事にしたいわけじゃない」 「えー、そんなにイイの?」 「綺麗な場所だよ。ビルの残骸に魚が泳いで、水面から差し込んだ光が揺らめいて見える。あれを見ると、水が怖いなんて気持ちはなくなるな」
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