ナノとプリシラの就活

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プリシラは照れくさそうに謙遜した。 「決まったも同然じゃない。錬金術業界の最大手だもの。安泰よ」 身体の小さな妖精が等身大に混じって働くことは大変なことだ。ましてや同等以上のノルマを果たそうとすれば体力がもたない。したがって生産活動でなく知識階級に活躍の場を探すしかない。この国において魔法や錬金術は公共事業だ。魚介類から水銀を絞り、金に変える作業は膨大な手間と費用がかかる。実力派の錬金術師は独立して大規模な自前の工房を構えているものの、入札競争に打ち勝つために福利厚生にしわ寄せがいく。 「安心してはいられないわ。ララーナ母さんは砂をかむような思いで働いていた。それで油断した」 プリシラは病床の義母を慮った。 「これはやりたい仕事じゃない。何でこんなことをしてるんだろう、ってぼやいてたわね」 ナノは子供のころからピクシー族の横丁に出入りしていた。母親同士が発注主と下請けの関係にあったのだ。ナノの実家はララーナから仕入れた卑金属を調合して町医者や薬局に卸していた。 「王立アカデミーの巨釜は夜も昼も休みなしよ。火が衰えただけで薬液が全部パー。地道でしんどいだけ。錬金術の派手なイメージはどこにもない」 少なくともプリシラが憧れる職業ではなかった。     
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