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「確かに寿命を削ってまで奉仕する意義は感じられないわね」
薬害で黄色くなったララーナの肌をナノは鮮明に覚えている。
「でも魔導士免許を取ってまで工房を立ち上げようとは思わないわ。わたし、人をこき使うタイプじゃないもの」
プリシラはかぶりを振った。
「エスティマの大工房は超優良企業だものね。お給料もちゃんと貰えるし身体を壊すこともない」
ナノの進路は決まっていた。チャレンジャーな王立アカデミーでなく、実利主義の魔法公社。しかし、その道のりは険しい。
やがて、涼みの季節が来て、二人は別々の暮らしを始めた。
プリシラはエスティマ大工房。ナノは血で血を洗う競争を勝ち抜いて見事に正職員の席を得た。採否結果発表の日。魔法公社の正門でうなだれる応募者の姿にナノは尋常ならざる気配を感じた。目は髑髏のように落ちくぼんで頬骨が浮いている。髪はぼさぼさで土気色だ。
しかし、ナノは自分が特別だと信じていた。彷徨っている人々は敗者だ。自分は並みいる強豪をなぎ倒したスペシャルだ。血のにじむ努力をした。努力しない人々に怯える必要はない。
そう自分に言い聞かせて入社式に臨んだ。
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