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就職してからもプリシラとナノは連絡を密にした。ララーナは闘病生活の末に旅立った。ナノの実家も仕入れ先を失い連鎖倒産に巻き込まれた。母親は世をはかなんで息絶えた。
「それでね。今日は・・・」
朝に夕に二人は水晶玉で語り合った。仕事のことはもちろん、気になる同僚や上司の愚痴など包み隠さず打ち明けた。
しかし弱音を吐く割合はプリシラのほうが多かった。
「あなた、それは名うての工房だもの。仕方ないわよ」
ナノはいつしかお姉さん役として愚痴を聞いていた。
エスティマ大工房は独り勝ちを続けた結果、魔法商都キグナスの錬金術を一手に担う生活基盤に成長した。
中小の工房は肉食獣の餌のごとく貪りつくされ、専門性の高い個人工房だけが残った。
「いくら成果を積み上げても評価されないの。『過去の成績だ』ってさ」
プリシラは際限ない要求に青息吐息だった。錬金術徒弟(アプレンティス)として新しい調合法を幾つも発表している。自分専用の実験室やスタッフも与えられた。しかしそれ以上に販売ノルマも課せられた。錬金術はキグナス市民の生活になくてはならないものだ。それだけに多少は高くついても代償を払うしかない。
エスティマは高水準の福利厚生を維持するために経費を価格に転嫁していた。そうしないと魔法公社と互角以上に戦える人材をつなぎとめておけないのだ。
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