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「うまい」
と言いながら、男の子はあみの上にのこったおもちに目をやる。
「あんばいどうかな」
ものほしげに男の子が言った。
「どうかな、って。今、食べたじゃないか。……もっと食べたいってこと?」
ぼくはのこりの二つのおもちをさとうじょうゆにつけてからめた。今度は、こざらをむける間もない。男の子は、手をのばして二つのおもちを食べてしまった。手づかみで。
「うまい、うまい」
男の子は、ゆびをなめながらしちりんの上のあみを見回した。
「そんなに見ても、もう、おもちはないよ」
あぁ。一つも食べられなかった。
そっと、いきをつく。
三年前までは、家でもおもちをついていたので食べほうだいだったけれど。今は、ちがう。
今は、正月気分をあじわって、少しあまるぐらいのりょうをスーパーで買っているだけだ。
「どうして、ない」
「――カラスが持っていったんだよ」
なぜだか、そう、口がうごいていた。
でも。
一番の理由ではないけれど、うそじゃない。じっさいに、井戸や自転車におそなえしていたかがみもちをカラスに持っていかれている。
「あいつらか。かんしゃくどっかん」
男の子のほおがキツく強ばる。目も、つり上がった気がした。
ワチッ。
もえのこりのたき木がはぜたらしい音。いっしゅん、ぼくのしせんがふろがまにむいた。
「あれっ?」
しせんをもどした時、男の子のすがたはどこにもなかった。
しちりんにやかんをかけていると、畑からもどった父さんがやってきた。
「おや? おもちをやいたにおいがするぞ。――なんだ。今日はのこしてくれてないのかぁ」
父さんは台においていたこざらをのぞきこむよう見た。
「どこかの知らない子がきて、食べていったんだ。うまい、って言ってたよ」
「そうかぁ。そういうことならいいんだよ。……それで、どんな子だった?」
「どんなって。丸ぼうずでさ、そでなしのシャツに、短パン、ゴムぞうりで――。えっ」
それって、どうなの?
言ってるとちゅうで気づいてしまった。今は一月、冬なのに。
「このさむいなか、そんなかっこうだったのかい?」
父さんがおどろいて目を見ひらいた。
「だよね? 今まで気にならなかったなんて。おかしいな」
「う、ん」
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