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「動……けない!!」
青ざめた表情で必死に身体を動かそうとしているのか、駆動部分が壊れた人形のような挙動でこちらに訴えてくる。
「は!?ちょっ」
「冬真…だけでも逃げて…!!」
そんな状態にも関わらず、彼女は僕に逃げろと泣くように叫ぶ。
そんなこと、できるわけあるかってのバカなの?こいつは。
とりあえず身体を引っ張ってはみるものの、あんまり進まない。
「ちぃっ……くしょ!!太ってんじゃないぞ!無駄に脂肪蓄えやがって、この…おっぱいかぁ!!?」
そう叫びながらも両脇に腕を入れて、後ろに引くように動かすけれど、一歩ジャンプすれば壁まで届くかなって距離にしかならない。
「…私は良いから逃げて?」
もうどうしても二人が無事に助かる道は無いほどに切迫した死を見て、絞り出したように掠れた声で訴えかける彼女。
「うっさい!おっぱいその口に詰めんぞ!!」
とは言うもののあれだけ離れていた距離は、後少ししか猶予はなく、取れる手段が────
─────あぁそうだ、一つある。
「まぁいっか」
「えっ!?」
「痛いかもだけど我慢してな」
「何…っ!!」
何をする、と言う暇を与えず…いや与えられず。
友人Aを両脇から彼女の腹部へと自分の両手を繋ぎ、遠心力を利用してダンプの当たらない壁側にぶん投げた。
───腕に当たる感触は柔らかかった、とても。
もちろん反動で僕はダンプが確実に当たる位置へと強制連行されるが。
まぁこれしかないっしょ、こいつだけは死なせたくないし。
「冬真っ!?」
「最後に愛菜のおっぱい触─────ッ!!!」
僕は言葉を、最後まで言い切れず。
無慈悲な鉄の塊は、僕の身体を物凄い衝撃で弾き飛ばした。
凄まじい痛みの中、唐突に僕は思い出した。
『あぁそういや……あいつの名前…日高愛菜って言うんだったわ』
と。
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