鎖家の犬

3/4
前へ
/4ページ
次へ
 とはいえ誰かにこのことを伝えるにしても、こっそり近くの山に遊びに行ったことは何度もあったが人の住んでいるところまでは行ったことがなかったのでどうすることもできない。それに、見たこともない子供の話を真剣に聞いてくれるだろうか。  僕は何日か悩んだ末に、半ば諦めつつも両親に話した。実は彼はとても賢いこと、僕が彼を家族だと思っていること、子供なりにうまく伝えようとした。両親は顔を強張らせていたが、僕らが遊んでいたことについては叱らなかった。それどころか、滅多にあげない食事を今日は出していた。どうやら、僕は勘違いをしていたようだ。両親がたとえ彼をペットとさえ思っておらず、ひどい仕打ちをしようとも、僕のことは家族として認識しているんだから僕の気持ちは尊重されるし痛め付けられることもない。そうだ、僕が彼を守ってやればいいんだ、もっと早くこうしておくんだった。その夜、一仕事終えた気になった僕は久々に心地よく眠ることができた。  翌日、彼は死んでいた。僕は悲しくなるというより、自分と両親に絶望し、憤った。辺りには血を吸った土が広がり、昨日あげたはずの食事の一部が少し溶けた状態で彼の口元にあった。そのうえ、唯一残っていた左手も、胴体の根元から切り離されていた。しばらく状況が飲み込めず呆けていたが、徐々に落ち着きを取り戻すと悲しさと情けなさが堰を切ったように押し寄せてきた。結局僕はなにも分かっていなかったし、そのせいで彼は死んだ。直視するのが苦しい現実だったが、せめて彼のためにお墓を作ってやりたいと思い裏庭に穴を掘った。別れの準備ができ、あとは埋めるだけとなったところで父に見つかった。僕は思いっきり憎しみを込めて睨み付けた。けれど父はそんなこと気にもとめていない風に 「気味が悪いからどこか見つからないところに捨ててこい」 と言った。僕は何か言ってやりたかったが、ここで、父に詰問し、反抗することは得策でないことに気付いたので堪えた。つまり、死んでしまってはいるが彼と一緒に敷地の外に堂々と出られるのだ。この機会を使わない手はない、絶対に復讐してやる、そして彼を家族だと認めさせる、そう決意した。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加