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「はぁ~……」  三時集荷依頼の電話を終えて、ため息をつく。  白猫の静谷君。いつも明るく、気を使って色々と世間話を織り交ぜて会話をしくれる出来た人だ。個人的には凄く好きなんだけど……。  上が決めてしまった事だし、自分に非がないことも分かっているのだけど申し訳ないという気持ちになってしまう。会社組織には逆らえない。その組織が大きければ大きいほど、一度決定した物事を覆すのは難しい。  そして、経営努力をしなければどこの会社も生き残っていく事は難しい。そういう時代でもある。  昨日、二度目の会議が終わったのは二十時過ぎだった。  結局俺の提案は却下。  四月から全ての配送を別の運送会社に委託することになってしまった。ということは、白猫はあと一ヶ月でバッサリとカットされてしまうという事だ。  元々同じ会社だったものを二つに分けた歴史があると部長からは聞いていた。それなのに……長い付き合いも人情もクソもない。自分の会社の行く末も心配だ。恩を仇で返すような今の社長のやり方では、そのうち手痛いしっぺ返しを食らう事になりはしないか……。  気が滅入る事ばかりだ。  定時で会社を出て、ヨレヨレの気分で電車に乗る。帰宅ラッシュの車両にはおんなじように疲れた表情のサラリーマン達。重い荷物を抱え、踏ん張っている男たちを見ていると、いつも自分は場違いな場所にいるような気持ちになる。だからといって、途中下車する勇気もない。そんな力は、もう俺には無い。ボウと考えてると駅名を告げるアナウンスが流れた。徐行する電車の窓から見慣れた風景を眺める。なんの感慨も無い。ただの景色だ。  電車から降りた途端、寒風に首を竦めた。雪でも降りそうにキンと冷えた空気。駅構内を重い足で歩く。ふとガード下の屋台が目に入った。いつもは寄らない。寄りたいと思った事もない。  でも……  寒いけど、今の気分におでん屋台はピッタリな気がした。  サラリーマンが一人、左端に座っている。金曜日の夜に空席があるのも珍しかった。一つ席を空け、俺も座る。
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